陶房 ま

手のひらに収まる、もうひとつの姿誠社。

私たちが日々向き合っているのは、無垢の木で作る家具です。その家具工房である私たちが、家具づくりの傍らで焼き上げているのが、手のひらに馴染む器です。

姿誠社の家具づくりは、木と対話し、緻密な骨格を組み上げ、微細な削り跡(マティエール)を残すことで生まれます。 その「素材への没入」と「理知の探求」を、足元の土と窯に向け、器の形へと落とし込みました。

作家の意思によって意図された、土着の温かさ。 姿誠社が家具づくりで追求し続ける「静かな強さ」と「手仕事の体温」を、「陶房 ま」の器からも感じていただければ幸いです。

野性を残し、科学で補う「なかま土」

工房の敷地から掘り起こし乾燥させた「なかまの原土」

私たちが工房を構えるこの土地は、古くから「なかま」と呼ばれてきました。この敷地で自ら掘り起こす「なかまの原土」は、単独で焼成すると収縮が大きく、ひびや割れが生じてしまいます。私たちがまず向き合ったのは、器の「骨格」となる土作りでした。

「なかまの原土」組成試験の焼成プレート
野性味あふれる表情は、今では壁を彩るオブジェとして、私たちの創作を見守っています

器としての安定性を保つため、テストピースを焼いて収縮率を確認しながら、他の鉱物をブレンドする。この土地の風土を色濃く残すには「なかまの原土」を7割以上配合する必要がありました。この条件で調合したのが「なかま土」です。

「なかま土」をつくる。収縮率を確認するための焼成テストピース

「なかま土」のためだけの釉薬

「なかま土」のポテンシャルを引き出すための、釉薬原料アーカイブ

釉薬の調合の根底にあるのは、家具と同じように毎日気兼ねなく使える「機能性」です。

貫入(表面の細かなヒビ)を入れずに器としての強度を高め、毒性のある鉱物は使用しない。外側が荒々しい表情であっても、内側には汚れがつきにくい実用性を持たせる。日々の暮らしを支える道具としての基準を、土と釉薬の設計に落とし込みました。

「なかま土」専用の基本釉薬を定義するために蓄積された、5×6 cm の焼成テストピース

60種類以上の原料と数百のテストピースを用いた2年間の検証から設計されたのが、『灰釉』『白海鼠釉』『土釉』という3つの基本釉薬です。

この3つの釉薬は、掛け方や濃度の調整、釉薬同士の掛け合わせによって、「なかま土」が持つ多様な景色を引き出します。

多様な景色と「機能性」を実装するための、システマチックな標準釉:左から『灰釉』、『白海鼠釉』、『土釉』

灰釉 – HAI – 】

ひだまりチェアの端材が、柔らかな「肌着」に変わるまで。

私たちの代表作「ひだまりチェア」は、厚い無垢材から贅沢に削り出して作られるため、どうしても多くの端材が出ます。家具に使う木はどれも上質な高級材ばかり。ただ捨てるのはあまりにも忍びなく、冬の間は工房を暖める薪ストーブの燃料として大切に使い切っていました。

「このストーブから出る美しい灰を、さらに生かすことはできないか」。その思いから生まれたのが、この灰釉です。

「なかま土」の素地に、この灰を化粧土として施し、さらに同じ灰を用いたマット釉で優しく包み込みました。均一ではない、「なかま土」の赤色が透けるような白化粧の表情は、家具の端材が灰となり、器の景色として定着した姿です。

ひだまりチェアと同じように、使い手が無意識に撫でてしまうような、あたたかく柔らかな手触り(マティエール)を目指しました。

「ひだまりチェア」の端材が薪ストーブで灰となり、柔らかな手触りを生むための天然フラックスになる

海鼠釉 – SHIRONAMAKO –

惹かれるのは「白」。理知で引き出した静寂の色。

私が民陶の中で特に愛し、窯元のギャラリーなどで見かけるとつい見入ってしまうのが、海鼠釉(なまこゆう)です。

海鼠釉の特徴といえば、吸い込まれるような深い青と、奥行を持った白のコントラストです。私はこの幻想的な景色の中でも、とりわけ「輝く白」の色味に惹かれるのです。

この「白海鼠釉」は、白がより豊かに、分厚く現れるように調合し、この土から「白い景色」を引き出そうと取り組みました。

日本の伝統的な海鼠釉は、鉄分を含む釉薬の上に白濁する釉薬を重ねる「二重掛け」によってあの複雑な景色を作ります。ですが「なかま土」は、鉄釉を下塗りせずとも、白釉を直接掛けるだけで土の鉄分が反応し、美しいコントラストが生まれます。海鼠釉を描くための条件が、この土そのものに備わっているのです。

「なかま土」の記憶が描く、「白」の景色

土釉 – TSUCHI – 】

素地と釉薬がシームレスに繋がる、深い鉄紺のマット。

通常の釉薬は、基材となる土とは別の成分でできたものですが、この「土釉」は「なかまの原土」を釉薬のベースとして用いています。そうすることで、素地と釉薬が同じ土からシームレスに一体化した強い器が生まれます。

この「土釉」は、3つの釉薬の中で最も数多くテストを繰り返しました。その検証の過程で引き出されたのが、深い「鉄紺(てつこん)」です。原土に一定量の酸化鉄を加え、酸化焼成したところ、ある一点の配合でこの色が発現しました。

完全にガラス化させて器としての実用性を担保しつつ、表面の微細な結晶によって光の反射を抑え、すべすべとした手触りのマットな質感に仕上げています。

写真の器は、この土釉の鉄紺をベースに、縁(ふち)の部分に白海鼠釉を掛け合わせることで、さらに複雑な景色を生み出しています。

素地と釉薬をひとつにするための、水簸(すいひ)された「なかまの原土」

「ま」に込めた、二つの意味

私たちが工房を構えるこの土地は、古くから「なかま」と呼ばれてきました。 「陶房 ま」という名前は、私たちが日々触れている土地「なかま」の「ま」であり、作り手である私、西村正太(まさとも)の「ま」でもあります。

平仮名が持つ曲線の柔らかさのように、あるいは、木が深呼吸するのをじっくりと待つ「間(ま)」のように。 この小さな器から、姿誠社が大切にしている「マティエール(肌理)」と「土着の温かさ」を感じていただければ幸いです。

陶房 ま

窯出しのたびに、できた分だけを。

「陶房 ま」の器は、家具づくりの合間に土と向き合い、窯出しをしたタイミングで少しずつお譲りしています。 姿誠社の家具づくりの哲学に共鳴してくださる方へ。あるいは、日々の暮らしに静かな手触りを求めている方へ。ご縁のあった方にお使いいただければ幸いです。

【 小さな展示室は、現在準備中です 】
皆様をお迎えするためのオンラインストア「小さな展示室」は、現在、少しずつ場を整えている最中です。

次回の窯出し(2026年8月頃を予定)を迎え、器が焼き上がりましたら、こちらにひっそりと並べておく予定です。公開まで、どうか気長にお待ちいただけますと幸いです。

[ 小さな展示室(準備中) ] 

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